鼠径部(足の付け根)が痛い原因は?FAIとリハビリについて理学療法士が解説
「しゃがむと足の付け根が詰まるように痛い」
「靴下を履くときに股関節が痛む」
「長く座ったあと、立ち上がると鼠径部が痛い」
このような症状でお困りではありませんか?
鼠径部とは、お腹と太ももの境目にある「足の付け根」の部分です。
鼠径部の痛みは、股関節そのものだけでなく、周囲の筋肉や腱、腰、神経など、さまざまな原因によって起こります。
そのなかでも、股関節を深く曲げたときに痛みや詰まり感が生じる原因の一つが、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)です。
今回は、FAIによる鼠径部痛の特徴と、リハビリテーションで大切にしているポイントについて、できるだけわかりやすく解説します。

鼠径部の痛み=股関節だけが原因とは限りません
足の付け根が痛いと、「股関節の軟骨がすり減っているのでは?」と心配される方が多いと思います。
しかし、鼠径部の痛みには、さまざまな原因があります。
例えば、
・股関節の軟骨や関節唇の問題
・股関節周囲の筋肉や腱の問題
・筋肉の付着部にかかる負担
・腰からくる痛み
・神経の刺激による痛み
・スポーツによる使いすぎ
などが挙げられます。
また、一つだけでなく、いくつかの原因が重なって痛みを起こしている場合もあります。
そのため、鼠径部が痛いからといって、最初から「股関節の中だけに原因がある」と決めつけないことが大切です。
痛みが出る動作や場所、股関節の動き、腰や骨盤の状態などを総合的に評価する必要があります。
FAIとは?
FAIは、英語の「Femoroacetabular Impingement」の略です。
日本語では「大腿骨寛骨臼インピンジメント」と呼ばれます。
少し難しい名前ですが、簡単にいうと、股関節を曲げたりひねったりしたときに、太ももの骨と骨盤側の受け皿がぶつかりやすくなる状態です。
股関節は、ボールのような大腿骨頭と、それを受け止める骨盤側の寛骨臼からできています。
骨の形や股関節の動かし方によって両者が繰り返しぶつかると、股関節の前方に圧迫が加わります。
その結果、
・股関節唇
・関節包
・軟骨
・股関節周囲の筋肉や腱
などに負担がかかり、鼠径部の痛みや詰まり感が生じることがあります。
ただし、画像検査でFAIに関連する骨の形が認められても、必ず痛みが出るわけではありません。
実際の診断では、症状、診察所見、レントゲンなどの画像所見を組み合わせて判断します。
FAIにはどのようなタイプがある?
FAIは、骨の形によって主に次の3タイプに分けられます。
Camタイプ
大腿骨頭と大腿骨頸部の境目に、骨のふくらみがみられるタイプです。
股関節を深く曲げたときに、このふくらみが骨盤側の受け皿に当たり、関節唇や軟骨に負担がかかることがあります。
Pincerタイプ
骨盤側の受け皿である寛骨臼が、大腿骨頭を覆う範囲が広いタイプです。
股関節を動かしたときに、寛骨臼の縁と大腿骨がぶつかりやすくなります。
Mixedタイプ
CamタイプとPincerタイプの両方の特徴をもつタイプです。
実際には、両方の特徴が混在しているケースも少なくありません。
こんな動作で痛みが出る場合があります
FAIによる症状は、股関節を深く曲げたり、曲げた状態でひねったりする動作で出やすい傾向があります。
代表的な動作は次のとおりです。
・深くしゃがむ
・低い椅子から立ち上がる
・靴下や靴を履く
・足の爪を切る
・階段を上り下りする
・長時間歩く
・長く座ったあとに立ち上がる
・車の乗り降りをする
・股関節をひねる
スポーツでは、
・サッカー
・野球
・ゴルフ
・スケート
・ダンスやエアロビクス
・ウエイトトレーニング
など、股関節を深く曲げる動作や、ひねり動作を繰り返す競技で症状が出ることがあります。
「鼠径部が痛い」というよりも、「股関節の前が詰まる」「奥のほうが引っかかる」と表現される方もいます。
股関節を曲げるには、腰と骨盤の動きも必要です
股関節を深く曲げる動作は、股関節だけで行っているわけではありません。
実際には、股関節の動きに合わせて骨盤が後ろに傾き、腰も丸くなることで、深くしゃがんだり、靴下を履いたりすることができます。
ところが、
・骨盤が前に傾いたままになっている
・腰がうまく丸まらない
・骨盤を後ろに倒す動きが少ない
といった状態では、股関節の前方が十分に開きません。
そのまま股関節を深く曲げようとすると、大腿骨と寛骨臼が早い段階でぶつかり、前方に詰まり感や痛みが出やすくなります。
つまり、鼠径部が痛い場合でも、股関節だけではなく、腰や骨盤の動きを確認することが重要です。

股関節周囲の筋肉が硬くなることもあります
股関節の周囲には、関節を安定させるための小さな筋肉が数多く存在します。
主なものには、
・腸腰筋
・小殿筋
・外閉鎖筋
・内閉鎖筋
・大腿直筋
などがあります。
これらの筋肉は、股関節の骨頭が関節の中心に収まるように支える役割を担っています。
肩関節でいう「腱板」に近い働きをする筋肉群と考えると、イメージしやすいかもしれません。
股関節内に炎症や不安定感が生じると、周囲の筋肉が関節を守ろうとして過剰に緊張することがあります。
筋肉が硬くなると、股関節の動きがさらに悪くなり、前方への圧迫が強まるという悪循環に陥ることがあります。
「筋肉の硬さ」だけでなく、組織の滑りも重要です
股関節の前には、筋肉、腱、関節包、脂肪組織など、さまざまな組織が重なっています。
これらの組織は、股関節の動きに合わせて、お互いに滑るように動きます。
ところが、炎症や使いすぎなどによって組織同士の滑りが悪くなると、股関節を曲げたときに前方の組織がうまく逃げられません。
その結果、
・股関節の前が詰まる
・一定の角度で痛みが出る
・ストレッチをしても改善しにくい
・動き始めに引っかかる
といった症状が起こることがあります。
そのため、リハビリでは筋肉を単純に伸ばすだけではなく、組織同士が滑らかに動ける状態を取り戻すことも大切です。
FAIのリハビリでは何をする?
リハビリでは、単に股関節を柔らかくするのではなく、どの部分に負担が集中しているのかを評価します。
主なポイントは次のとおりです。
腰と骨盤の動きを整える
股関節を曲げるときに骨盤が適切に後ろへ傾くよう、腰椎や骨盤周囲の動きを整えます。
股関節だけに動きを求めないことで、前方への圧迫を減らせる場合があります。
股関節周囲の筋肉を整える
腸腰筋、小殿筋、外閉鎖筋、大腿直筋など、股関節を支える筋肉の緊張や柔軟性を確認します。
ただし、痛みが出る方向へ強くストレッチすると、かえって症状が悪化することがあります。
その方の状態に合わせた方法で行うことが大切です。
組織同士の滑りを改善する
股関節前方にある筋肉、腱、関節包、脂肪組織などが滑らかに動くようにアプローチします。
股関節の前方に残る詰まり感の改善につながることがあります。
股関節を安定させる筋力をつける
お尻や体幹の筋肉を適切に働かせ、股関節に負担が集中しにくい身体の使い方を練習します。
筋力トレーニングは、痛みを我慢して行うのではなく、症状が悪化しない範囲で段階的に進めます。
動作やスポーツフォームを見直す
しゃがみ方、立ち上がり方、歩き方、スポーツ動作などを確認します。
股関節を無理に深く曲げるフォームや、膝が内側に入る動作などを修正することで、股関節への負担を減らせる場合があります。
まとめ|鼠径部痛は股関節だけでなく、腰や骨盤も含めて評価します
鼠径部や足の付け根の痛みには、さまざまな原因があります。
FAIでは、股関節を深く曲げたときに大腿骨と寛骨臼がぶつかり、前方に痛みや詰まり感が生じることがあります。
しかし、実際の症状には、
・腰や骨盤の動き
・股関節周囲の筋肉の緊張
・組織同士の滑り
・股関節を支える筋力
・日常生活やスポーツでの身体の使い方
なども関係しています。
そのため、画像だけを見るのではなく、どの動作で、どの場所に、どのような痛みが生じているのかを詳しく評価することが大切です。
「しゃがむと足の付け根が痛い」
「靴下を履く動作がつらい」
「スポーツ中に股関節の前が詰まる」
このような症状が続いている方は、痛みを我慢して運動を続けず、一度整形外科にご相談ください。
当院では、医師による診察と理学療法士による身体機能評価を行い、一人ひとりの原因に合わせたリハビリテーションをご提案します。
明石市周辺で鼠径部痛や股関節痛、スポーツ中の股関節の詰まり感にお悩みの方は、たちはら整形外科・肩とスポーツのクリニックまでご相談ください。
執筆:理学療法士 河野 稔貴
監修:医師 立原久義(たちはら整形外科・肩とスポーツのクリニック 院長)



